概要
このチュートリアルでは、SimScaleのConjugate Heat Transfer v2ソルバーを使ってU字管熱交換器の共役熱伝達シミュレーションを実行する方法を紹介します。
本チュートリアルの動画版をこちらで公開しています。ぜひ、本チュートリアルページと一緒にお役立てください。
図 1: 熱交換器内の流路上の温度分布の可視化
このチュートリアルでは、SimScaleのConjugate Heat Transfer v2ソルバーを使って多管式熱交換器あるいはシェル&チューブ式熱交換器と呼ばれる熱交換器の共役熱伝達シミュレーションを実行する方法を紹介します。
この熱交換器の形式は、多管式熱交換器の中でも、U字型のチューブからU字管熱交換器とも呼ばれ、部品数が少なくシンプルな構造です。自由に伸縮できるチューブ形状を持ち、チューブとシェルの温度差による熱応力を発生させにくく、なおかつ良好な熱性能をもたらします。熱交換器内で生じるシェル内とチューブ内の2つの流体の熱伝達の様子を計算し、可視化していきます。
このチュートリアルでは、次の方法を説明します。
- 共役熱伝導シミュレーションのセットアップと実行
- 初期条件、境界条件、材料の割り当て、およびその他の特性の条件設定
- SimScaleの標準メッシングアルゴリズムによるメッシュ作成
- SimScale上で結果をポスト処理
次のワークフローに従い、チュートリアルを行います。
- シミュレーションのためのCADモデルを準備します。
- シミュレーションをセットアップします。
- メッシュを作成します。
- シミュレーションを実行し、結果を評価します。
1. CADモデルの準備と解析種類の選択
1.1. CADモデルをワークベンチにインポートする
まず、下のリンクをクリックして、ジオメトリを含むチュートリアルプロジェクトをWorkbenchにコピーします。

図2: SimScaleワークベンチにインポートされた熱交換器のCADモデル
1.2. CADモード
シミュレーションの設定を始める前に、CADのプリ処理を行う必要があります。共役熱伝達では、固体と流体の間の熱伝達を解析します。用意されているCADデータから、解析に用いるための、流体が通る領域の形状データを作成していきます。
次の図は、シミュレーションに使用するジオメトリを示しています。熱交換器のシェル、シェル内の高温流体の流体領域、チューブ内の冷却水の流体領域があります。このうち、右2つの流体領域を、CADモードのInternal Flow Volume操作で作成していきます。
図3: シミュレーションに使用ためにこれから準備するジオメトリ
流体領域を作成したら、Imprint操作で熱伝達を計算するための接触箇所を自動検出します。それでは、CADモードでの作業を行っていきましょう。ジオメトリツリーからHeat_Exchangerを選択し、CAD modeに入ります。

図4: CADモデルを複製し編集を行います。
1.2.1. 熱交換器内部の流体領域を作成する
Internal Flow Volume でまずは冷却液の流体領域を作成します。このステップでは、流体領域を自動で抽出するための情報を設定します。
- ツールバーから Flow Volume → Internal Flow Volume を実行します。
- 設定パネルで、流体領域と接する面をSeed faceとして選択します。管内の流れの場合は管の内面の一部を選択します。今回は、図5で青くハイライトされている面をSeed faceとして選択しましょう。
- Boundary faces では開口面を定義します。今回は、流入口と流出口の2つを設定します。赤い矢印で指されている、流入口と流出口の断面を選択してください。
- Applyをクリックします。
図5: チューブ内の流体領域を作成するときの設定
これで、チューブ内の流体領域を作成できました。同じ要領で、Internal Flow Volumeから、もう1つの流体領域を作成します。新たにInternal Flow Volumeをクリックし、以下の図の青い面をSeed face、白い面をBoundary faceとしてください。表示されているモデルやモデル周辺をクリックしてマウスを動かすことで表示を回転、ホイールクリック(中央クリック)しながらマウスを動かすと表示を平行移動できます。
図6: シェル内の流体領域を作成するときの設定
これで、両方の流体領域が準備できました。あとは、Imprint操作を行えば、シミュレーション条件の設定に入れます。
1.2.2. Imprintで接触面を自動認識する・編集を保存する
Conjugate Heat Transferでは、熱伝達の計算を行う伝熱面、すなわち2つの流体領域と熱交換器のシェルの接触面が認識されている必要があります。 Imprint を行うことで、実際に接触している部分が認識され、サーフェスが作成されます。
最後に、 Save で編集した結果を保存してシミュレーションに利用できるようにします。
- Imprint をツールバーで選択します。
- Apply をクリックします。
- 画面右上の Save をクリックします。

図 7:Imprint操作
1.3 シミュレーションを作成する
CAD モードからエクスポートされたモデルは、Copy of Heat Exchanger という名前で画面左上のジオメトリツリーに表示されます。これを用いてシミュレーションを実行していきます。
- ここでは、CADモデルの名前を分かりやすく変更しましょう。 Heat Exchanger from CAD Mode としてみてください。(分かりやすい名前であれば何でも構いません。)
- ✅ボタンをクリックして名前の変更を保存します。
- Create Simulationをクリックします。
図 8: シミュレーション作成の手順
解析タイプウィンドウが表示されます。Conjugate Heat Transferを選択し、Create Simulationをクリックして開始します。この解析タイプについて詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。
図9:シミュレーションタイプの選択画面
2. シミュレーションの条件設定
まずはシミュレーションのグローバル設定を行います。シミュレーションツリーでシミュレーションの名前をクリックすると、以下の設定パネルが表示されます。
図10: グローバル設定の設定パネル
ここでは、シミュレーション全体に関して使用するモデルや機能の設定を変更できます。上図のようになるように、設定を変更・確認してください。
- Compressible をオンにします。
- 今回は流れが乱流であるため、k-omega SST乱流モデルを選択します。
- 定常解析なので、 Time dependency が Steady-state となっていることを確認してください。
2.1. Modelの設定
シミュレーションツリーのModelをクリックし、重力加速度を定義します。このモデルでは、+y方向が上向きなので、上から下に (-y方向に) 重力が作用するように gy を-9.81 とします。
図 11: シミュレーションに適用する重力の設定
2.2. 材料(Materials)の割り当て
このシミュレーションでは、固体であるチューブを通して流体(高温ガス)から別の流体(冷却水)に伝わる熱を解析します。そのため、高温ガスと冷却水、2つの流体領域と熱交換器のシェルに材料物性を割り当てる必要があります。
2.2.1 流体 (Fluids)
新しい材料を適用するには、シミュレーションツリーで Materials → Fluidsの横にある+アイコンをクリックします。まず、チューブ内で流れている水を設定します。
図 12:流体の材料のリストと Water
Apply をクリックした後、物性値はそのままにし、 Assigned Volumes で画面右上のシーンツリーでチューブ内の流体領域ジオメトリ (Flow region) を選択して割り当てます。作成した流体領域が二つとも同じ名前となってしまっていますので、分かりにくければビューアでモデルをクリックして選択も可能です。
図 13: 冷却水の流体領域への物性の割り当て
続いて、シェル内の高温流体である空気を設定します。同様に Fluid の +アイコンをクリックし、表示されるリストから Air を選択します。
図 14:材料ライブラリの中の Air
Assigned volumesに、外側の流体部分に相当する流体領域を選びます。
図15: Airの設定パネル。
2.2.2. 固体 (Solids)
Material → Solid の隣にある+アイコンをクリックします。選択する材料は Steel です。
図 16: 固体材料ライブラリ
流体領域と同じ手順で、 Shell に割り当てます。
図17: Shell への Steel の割り当て
2.3. 境界条件の設定
熱交換器に境界条件を割り当てるには、Boundary conditionsの隣にある+アイコンをクリックし、設定する境界条件の種類を選択できます。この節では、冷却水の流入口・流出口と高温ガスの流入口・流出口について境界条件をそれぞれ設定します。
図 18: 境界条件の選択
2.3.1. 流体領域(冷却水)
図 18に示すように、表示されるリストから Velocity Inlet をクリックして、低温流体の流入速度を設定します。以下のように設定します。
- Velocity type: Fixed value (今回は流速一定の条件を使用します。)
-
(U) Velocity:
- Ux: -0.05 m/s (流入方向がx方向なので、Uxのみ設定し、他はゼロとします。)
- Temperature: 10 ℃
- 縦に並んだ流路の内、上側を選択します。
図19: 冷却水流体領域の流入速度の設定。
Pressure Outlet 条件を作成します。 (P) Pressure を大気圧として 101325 Pa とし、冷却水の流路の流出面に適用します。これで、冷却水の流体領域について流入口・流出口両方の境界条件を設定できました。
図20: 冷却水流路の流出口の圧力の設定。
2.3.2. 流体領域(高温流体)
同じ手順を高温ガスの流体領域についても行っていきます。
流入口の境界条件として、 Velocity inlet を作成します。以下のように設定します。
- Velocity type: Fixed value
-
(U) Velocity
- Uy: 10 m/s
- Temperature: 100 ℃
- Assigned Faces に熱交換器下側の流入口を選択してください。
図21: 高温流体の流入速度
最後に、流出部の圧力条件を101325 Paに設定します。
図22: 高温流体の出口の圧力境界条件
2.4. Simulation Control と Numerics
シミュレーションツリーからSimulation Control の設定パネルを開くと、シミュレーションの計算ステップや出力ステップ間隔、使用するコア数などを設定できます。このチュートリアルの解析ではデフォルトの設定で十分なので、特に変更は行いません。
図 23: シミュレーションコントロールの設定パネル
Numerics も同様にデフォルトの設定値のままとします。
3. メッシュ
Mesh をクリックして、次の図に示すグローバルメッシュ設定パネルを開きます。以下の設定になっていることを確認してください。
-
Algorithm: Standard
- 多くの場合は、Standard メッシャーでメッシュ作成を行えます。
-
Fineness: 5
- 値を小さくするほど、メッシュが粗くなります。5は自動調整における中間サイズとなります。
図 24: Mesh の設定パネル
| 計算実施済みのプロジェクト |
| 解析条件の設定とシミュレーション計算がすでに実施済みのプロジェクトをこちらからご確認いただけます。 |
4. 計算の実行
すべての設定が完了したら、Simulation Runsの隣にある+アイコンをクリックして解析を開始します。メッシュも自動的に生成されます。
図25: 新規シミュレーションの実行
計算が実施されている間も、ポストプロセッサーで中間結果を見ることができます。中間結果はリアルタイムで更新されます。
5. ポスト処理
シミュレーションが完了したら、収束プロットとシミュレーション結果を確認できます。シミュレーションツリーのRun1をクリックして展開すると、以下のように表示されます。
図26: シミュレーションツリーの結果確認に関する項目
5.1. Convergence plots (収束プロット)
Convergence plots は、解が信頼できるかどうか、あるいはメッシュを細かくしたり、シミュレーション時間を長くするなど、設定に何らかの変更を加える必要があるかどうかを示します。次の図は、シミュレーションの残差をプロットしています。
図27: Convergence plotのグラフ
シミュレーションの結果を見るには、終了したRun1の下にあるSolution Fieldsタブをクリックします。これにより、ポストプロセッサーが呼び出されます。
5.2. 結果のカラーコンター表示 (Parts Color)
Solution Fieldsから入れるポストプロセッサでは、ある物理量のモデル全体における分布を確認できます。以下の手順で、高温気体の温度を確認してみましょう。
- 高温気体のみに着目したいので、冷却水の流体領域と熱交換器のシェルを非表示にします。右上のツリーで、低温流体の流体領域と固体部分のジオメトリの横の目のアイコンをクリックし、表示を Hide にしてください。
- もしも、 Parts Color のほかに Cutting plane などが既に表示されている場合は、フィルタパネルのトグルで非表示に切り替えられます。
- Coloring を Temperature に設定します。
- ビューアの下部で温度の単位を ℃ に変更します。
- 下部の凡例を右クリックし、Use continuous scaleを選択します。
- カラーコンター図の色の表示を滑らかにするための操作です。 Use continuous scale ではなく、 Use stepped scale と表示されている場合は操作は必要ありません。
図28: 高温気体の温度のみを表示する手順
流体領域の色が暖色から寒色へ変化していることから、流入付近の高温の状態から流出付近の低温の状態への温度低下が生じていることが分かります。
図29: カラーバーを Use continuous legends にした場合の可視化結果
5.3. 断面表示 (Cutting Plane)
新しい切断面を作成することで、中心面の温度分布を表示できます。断面の追加は、以下の手順で行います。
上部のツールバーで Cutting Plane をクリックします。
図30: ツールバーから Cutting Plane を選択
フィルターパネルが表示されるので、以下のように設定してください。
-
Orientation を Z とします。選択した軸方向に垂直な断面が生成されます。デフォルトでは、断面位置はモデルの原点になります。 Orientation の右端にある反転ボタンをクリックすると、表示する断面の向きを変更できます。
- フィルタパネルで Parts Color のトグルをオフにすると、断面のみ表示されます。
- Coloring は Temperature とします。
図31: 温度分布の断面表示
こうすると、高温ガスの温度は流出口では流入口での温度に比べて低下していることがわかります。また、熱交換機の中心付近では冷却水によって温度が大きく低下していることが分かります。
温度とは別に、流れの速さを調べることも重要です。ここではベクトル形式で可視化する手順を説明します。
- Parts Color のトグルをオフにし、断面表示だけにします。
- Coloring を Velocity Magnitude に変更します。
- Cutting Plane の設定で、 Vectors のトグルをオンにします。
-
Scale factor を 0.1 にします。
- (Scale factor: 値に対する矢印の大きさ)
- Grid spacing を 0.02に変更します。
- (Grid spacing: 矢印の間隔)
- 最後に、Project vectors onto plane をオンにします。
- (オフの場合は面外方向へのベクトルも表示されます。)
図32: 流速のベクトル表示
ベクトルを表す矢印が長いほど、その領域での速度が高いことを示しています。今回のケースでは、主に流入口と流出口付近で流速が大きいことを確認できます。
5.4. 流線表示
Particle Trace 機能によって、流れを流線として可視化できます。
- ツールバーで Particle Trace をクリックします。
- Pick Position の〇ボタンをクリックすると、流線のシードの位置を選択するモードになります。
- 冷却水の流入面クリックして選択します。
- (Particle Trace 機能では、シードが流れに乗ったときの軌跡を可視化できます。)
図33: Particle Trace の設定
詳細な設定は以下の通りに行ってください。
- Parts Color のトグルをオフにして非表示にし、ワークベンチ上で流線のみを表示できるようにします。
- #Seeds horizontally (水平方向に生成する流線の)を20にします。
- #Seeds vertically (縦方向に生成する流線の数)は30にします。
- Spacing (流線の間隔) を 3e-3 (0.003) に設定します。
- Coloring を Temperature に切り替えます。
- Size (流線の太さ) を5e-4に設定します。
- 今回のケースでは、 Trace both directions はオン・オフどちらでも構いません。
- (オンにすると、両方向に流線が表示されますが、今回は流体領域外側は流れがないので変わりません。)
図34: 流線の可視化結果
これを高温ガスについても繰り返してみます。もうひとつ Particle Trace を作成します。Pick Position で熱交換器下側の流入面を選択します。
図35: 高温ガスの流線表示の設定
値は以下のように設定してください。
- 前の2つのフィルターを無効にして、いま作成した Particle Trace だけが表示されるようにします。
- #Seeds horizontally を 20 にします。
- #Seeds vertically も 20 にします。
- Spacing を 3e-3 (0.003) に設定します。
- Coloring を Temperature に切り替えます。
- Size を3e-4に設定します。
図36: 高温ガスの流線の詳細設定と可視化結果
最後に、流線とモデルを同時に表示した図 1 のような画像を作成したい場合は、 Coloring を Solid Color に設定した後、Opacity (不透明度) を下げてください。
図37: 透明表示を利用した可視化と3Dモデルの同時表示
ポストプロセッサについて詳しくは、こちらのページをご覧ください。
おめでとうございます。チュートリアルは終了です。
References