Pedestrian Wind Comfort
Pedestrian Wind Comfort (PWC)では、専用の設定項目で簡易に建物周りの風の流れについて、建物ジオメトリの周囲に計算領域となる仮想敵な風洞を設定し、解析します。得られた結果は、建物への風荷重や、建物の形状等による風への影響の検討にご利用いただけます。格子ボルツマン法に基づくソルバーとGPUインスタンスを使用しているため、従来の格子法ベースのソルバーと比較して高速に建物周りの流れの検討を行えます。
図1: SimScaleで計算した、歩行者レベルでの平均風速マップ
PWC解析タイプは、ユーザーがジオメトリデータをアップロードしてからたったの3ステップ、設定に要する時間は数分で風環境シミュレーションを実施できるよう、設定手順とインターフェースが簡略化されています。設定の大部分はベストプラクティスとバリデーションを反映した自動化がなされており、高速かつ高精度な計算が行えるようになっています。一方で、パラメータの多くは必要があれば手動で調整もできるようになっています。
解析条件設定は以下の3ステップです。
- 解析する範囲を指定する。 (Region of interest)
- 風配図で風の情報を設定する。meteoblue のデータベースを使用可能です。 (Wind conditions)
- 必要に応じて歩行者領域を指定する。
図2: Pedestrian Wind Confortでの解析条件設定の3ステップ
流れの解析には、Pacefish® [1]が開発した格子ボルツマン法 (LBM) ソルバーを使用しています。LBMソルバーを使用することにより、下記の観点でワークフローの短縮が図れます。
- LBMは、ジオメトリの品質に関わらずほとんどの場合に計算を行うことができます。これにより、CAD上でのジオメトリの事前準備について、簡単なガイドラインはあるものの、あまり気にする必要がありあません。場合によっては、CADデータの前処理に数週間要していたものが、数時間の作業に短縮されます。
- 標準のOpenFOAMソルバーではCPUで計算処理を行いますが、LBMでは大規模並列計算に適しているGPUで計算が行われます。これにより、高度な並列計算が可能となり、複雑な問題でも数時間といった非常に短時間で計算が終了します。
なお、乱流モデルは k-omega SST DDES となっています。
Geometry
SimScaleで対応しているCADフォーマットを全て利用できますが、建築分野では、RevitやRhinoといった建築向けのCADが主に使用され、SimScaleで対応していないものもあります。対応しているRhinoの場合は、専用の形式 (.3dm)を使用します。非対応のCADソフトの場合は.stl形式を主に使用することになります。
ジオメトリ形状に対してロバストなソルバーであるとはいえ、ジオメトリデータが解析に適した形にされている方がより良い解析結果が得られるのも事実です。こちらの記事 (英語) に、CADデータの準備・前処理に関していくつかのガイドが紹介されています。
Region of interest
解析で着目しているメインの建物・エリアを指定し、解析で評価したい範囲 (RoI) を指定します。ここで設定した情報を基に、解析領域となる仮想風洞の大きさと向きが自動的に設定されます。
設定パネルは以下のように表示されます。
図3: Region of interest の設定パネル
各項目について説明していきます。
Disc radius と Center point
RoIは円で指定します。したがって、Disc radiusは円領域の半径、Center pointはその中心座標(x, y座標)です。
Ground height
解析で使用する仮想風洞の地上レベルの位置を設定します。ジオメトリデータ内の地形の有無によって、以下を参考に設定してください。
- 地形の起伏がない場合:
- 建物の地上面となる高さを指定します。建物が浮いた形になり建物の下に流れが生じる、という状況にならないようにします。すべての建物が同じ地上レベルとなっているよう確認してください。
- 地形の起伏がある場合:
- 地形の起伏がジオメトリデータに含まれている場合、最も標高が低い高さを指定します。Ground heightを高く設定しすぎると、地形の一部が仮想風洞の下側にはみ出てしまします。また、Ground heightを低くしすぎると、仮想風洞の大きさが必要以上に大きくなってしまい、余計に計算リソースを消費することになっていしまいます。
建物ごとの地表レベルが揃っていないものの地表形状がジオメトリ内に存在しない場合、地表面を新たにCADで作成する必要がある場合があります。参考ページ
North angle
デフォルトでは、インポートされたジオメトリの+y方向が北方向として認識されます。もしも、ジオメトリデータで北が異なる方向な場合は、ここで角度を指定して調整します。
Advanced settings - Wind tunnel size
Advanced settingsを展開すると、Wind tunnel sizeという項目が表示されます。Moderate, Large, Customを選択でき、これによって以下の図に示す仮想風洞のサイズが決定されます。
図4: 仮想風洞の設定寸法
ModereteとLargeではプリセットに従って仮想風洞の大きさが自動的に計算されます。計算方法は以下の通りです。
- Moderate (中)
- H, S, I = 3h
- O = 9h
- Large (大)
- H, S, I = 5h
- O = 15h
ここで、H, S, I, Oは図に示す箇所の寸法です。hは、Ground heightを基準に計算された、ジオメトリ内で最も高い建物の高さです。また、図のrはDisc radiusで指定したRoIの半径です。
Customに設定すると、上記の各寸法値を手動で設定できます。仮想風洞を小さくすると、計算コストは節約できる一方、精度は悪くなります。このような解析に詳しい方のみ利用されることを推奨します。
なお、実際の計算では仮想風洞の大きさは指定値よりも僅かに大きくなる場合があります。これは、ソルバーでx, y, z各方向のセル数が4の倍数であることが要求されており、それを満足するための修正が行われているためです。解析タイプIncompressible (LBM)においても同様です。
※補足:計算領域(仮想風洞)の可視化
RoIの設定を行うと、仮想風洞のジオメトリが画面右のシーンツリーに追加されます。Flow domainという名前で表示されますので、名前の横の目のアイコンをクリックすると、表示・非表示を切り替えられます。
北方向を向いた仮想風洞を表すピンクの立方体領域が表示されます。緑の円は、地形の起伏がある場合に地表面を表すジオメトリが存在するべき範囲です。風向に応じて、ピンクの領域が回転して計算が実施されるため、全方位に対して解析を行うためには地形データは少なくとも緑の領域まで存在する必要があります。(したがって、下図は修正するべき例と言えます。)具体的な例は参考ページをご覧ください。
図5: 仮想風洞となる計算領域の可視化結果
SimScaleの風快適性プロット機能を使用する場合、RoIで指定した範囲で風快適性が計算されます。
図6: RoI内で風快適性が可視化された結果
Wind conditions
ここでは、解析対象としている領域の風に関する統計情報だけでなく、解析を行ううえで参照される風工学的な規格も指定します。現在対応している規格は、以下の通りです。
- EN 1991-1-4: UKを含むヨーロッパの規格
- AS/NZS 1170.2: オーストラリアとニュージーランドの規格
- NEN8100: オランダの規格
- London City Wind Microclimate Guidelines: ロンドンの街に適するように設計された規格
- Murakami: 日本で広く用いられる日最大瞬間風速から求める規格
- Kazeko: 日本で広く用いらられる平均風速から求める規格
また、マップ上で解析を行う座標を選択することで、meteoblueから風配図を取得して利用できます。
詳細はこちらのページ(英語)をご覧ください。
Pedestrian Wind Comfort Map
SimScaleでは欧州の規格に則って歩行者レベルでの風快適性評価を行えます。評価のために必要な歩行者レベルを設定します。
設定項目は以下の通りです。
- Height above ground
- 歩行者の高さレベルを指定します。立って歩いている場合、カフェで座っている場合など、想定している状況に応じて変更します。
- Ground
- AbsoluteかRelativeを選択します。
- Absoluteとした場合は、Region of interestで設定したGround heightに対する値となります。
- Relativeとした場合は、Assignmentで基準とする面を指定し、その面に対する相対的な高さとなります。
- AbsoluteかRelativeを選択します。
図7: Groundの設定に応じたHeightの概要
Simulation Control
シミュレーション計算の実行に関する設定を行います。設定パネルと設定項目は以下の通りです。
図8: Simulation controlの設定パネル
- Maximum runtime per direction
- PWCでは設定した各方位に対して計算を行います。ここでは、計算時間が想定よりもかなり長くなった場合にGPU時間を消費しすぎないようにするために、各方位の計算にかけられる最大時間を設定できます。計算中に、計算に要した時間がここで設定した値に達した場合に計算は自動的にキャンセルされます。
- Number of fluid passes
- 過渡解析を行う時間長さの程度を、流れの周期の数として設定できます。デフォルトでは3となっており、多くの場合そのままで構いません。格子ボルツマン法は時間依存性のある非定常解析のため、このようなパラメータが存在します。
- 値のイメージとしては以下のようになります。
- 非定常計算を行う計算内時間tは、t = N × L/U で与えられます。ここで、Nはnumber of fluid pass、Lは計算領域の長さ、Uは流れの速度です。
- 計算領域が1kmの長さ、流速は基準速度の10m/sとすると、流れが一回通過する周期 fluid pass (L/U)は100 s となります。Number of fluid passesを3とすると、トータルの計算内時間は300 sとなります。
- 例えば、1つめのfluid passでは初期状態から定常流れの状態まで遷移し、2つめのfluid passでは流れに何かしら周期的な現象が現れ、3つめのfluid passでは解析の結果として用いられる最終状態・平均状態となる、といったことが考えられます。下図においても、32 sまでは初期状態から流れが立ち上がるまで、その後は流れに大きな変化はなく、88 sで定常流れが得られています。このように、多くの場合では number of fluid passes を 3以上とすることで有意な結果が得られます。
図9: 都市モデルにおける風流れの非定常挙動
Advanced Modelling
Surface roughness (表面粗さ) と Porus objects (多孔質オブジェクト)を設定できます。
Surface roughness (表面粗さ)
流れに対する抵抗を考慮したい場合に使用します。地形のカテゴリに基づいた調整、特定の粗さの設定、ベンチなどのオブジェクトを考慮した設定をできます。Surface roughness typeを選択して、それぞれ設定できます。
設定タイプと項目の概略は以下の通りです。
- Surface roughness type: Flow wind exposure
- Wind conditionで設定した各風向の地形カテゴリに基づいた設定を、選択した面に適用します。
- 大気境界層流れについて水平方向の均一性を確保するためには利用が推奨されます。
- Surface roughness type: Equivalent sand grain
- Equivalent sand grainに則って粗度を数値で指定します。各材料や地表の状態に応じた値は以下の通りです[1]。
-
Material ks, equivalent sand-grain roughness [m] Concrete, smooth wall 0.0045 Concrete, rough wall 0.013 Concrete, floor 0.04 Rubble 0.0175 Farmland 0.135 Farmland with crops 0.525 Grass with shrubs 0.265 Shrubbery 0.5 Grass and stone grid 0.0225 Gravel 0.075 Case iron 0.000254 Commercial or welded steel 0.00004572 PVC 0.000001524 Glass 0.000001524 Wood 0.0005 Cast iron 0.00026
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- Equivalent sand grainに則って粗度を数値で指定します。各材料や地表の状態に応じた値は以下の通りです[1]。
- Surface roughness type: Aerodynamic
- ジオメトリとしてモデル化されていないベンチや植生といった障害物による大気境界層流れへの大規模な影響をモデル化するために使用します。
- 設定値の一例を以下に示します。x/H は、障害物の長さと高さの比です。
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Terrain description z0 [m] Open sea, fetch at least 5 km 0.0002 Mudflats, snow: no vegetation, no obstacles 0.005 Open flat terrain: grass, few isolated obstacles 0.03 Low crops: occasional large obstacles, x/H > 20 0.10 High crops: scattered obstacles, 15 < x/H < 20 0.25 Parkland, bushes: numerous obstacles, x/H ≈ 10 0.5 Regular large obstacle coverage (suburb, forest) 1.0
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さらなる詳細はこちらの記事(英語)と記事内のリンクをご覧ください。
Porus objects (多孔質オブジェクト)
ポーラスメディアモデルで、一部流体を通すことができる固体オブジェクトをモデル化します。主に、樹木や生垣、ウィンドスクリーンといった、風を緩和するためのものに使用されます。Darcy-Forchheimer ModelとTree Modelが利用可能です。これにより、CAD内で細かなオブジェクトを作成する必要がなくなります。
モデルと設定の詳細はこちらのページをご覧ください。
Additional Result Export
結果について下記の項目を出力したい場合に設定します。
- Custom comfort and safety criteria
- カスタム指標をCSVファイルで設定します。
- Forces and moments
- 選択した面に生じる荷重とモーメントを出力します。モーメントを計算するための中心点を指定します。
- Probe points
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- 指定した点における速度と圧力を出力できます。
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- Transient output
- 指定した領域に対して追加で過渡的なシミュレーション結果を出力します。特定の領域で時間変化を確認したい場合に使用します。設定する領域が大きくなると、解析に要する時間も長くなりますのでご注意ください。
- Statistical averaging
- 指定した時間幅内での結果の平均値と、各風向について出力します。
詳細はこちらのページの該当する項目をご覧ください。
デフォルトで出力される結果データ
デフォルトでは、各方位の設定したRegion of interestについて、歩行者レベルにおける計算ステップ最後20%の時間変化と平均値が出力されます。
Mesh Settings
Pedestrian wind comfort では格子ボルツマン法ソルバーを利用しており、直交メッシュとなっています。作成される直方体要素は、必ずしも建物や地形に沿って生成される訳ではありません。
Mesh settingの設定パネルでは計算領域全体に関するメッシュ設定を行えます。特定の領域のメッシュを細かくしたい場合は、Refinementを設定してください。
詳細はこちらのページをご覧ください。
Simulation run
すべての解析条件の設定、出力項目の設定を終えたら、Simulation runからシミュレーションを実行できます。シミュレーションは各風向について平行で実行され、計算が終わったタイミングで統計的な処理が行わます。
図10: Simulation run
解析が終了したら、Event logで各種情報を確認できます。また、格子ボルツマン法ソルバーは陽解法のため、残差や収束プロットはありません。
快適性評価の可視化
全風向について計算が終了すると、Statistical surface solutions から全ての方位に関する結果を統合して快適性評価のコンターを確認できます。
図11: Statistical surface solutionのPost-process resultから各風向に関する結果から算出した快適性評価のプロットを確認できます。
ポストプロセッサの画面は、他の解析タイプと概ね同じですが、下図で④の凡例が表示されます。
各風向に関する結果は、シミュレーションツリーの指定のRunにおいて、Directionsから確認いただけます。
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