SimScaleでは、 Wall (壁) 境界条件によってその面における流れの挙動を定義します。流体解析において、壁境界は内部流れの解析における流路の内面、外部流れの解析における物体の表面や解析領域の端面に設定されます。
流体が物体と接触する面において、流体および壁面がお互いにどのような影響を及ぼすか考慮しなければいけません。このためには、流体に対する壁面の相対速度、壁面における流体の熱的影響を明らかにする必要があります。
流体速度境界層
流体境界層は、1942年にLudwig Prandtlによって初めて定義されました。一様流れが壁の付近を通過する際に、壁に対する速度勾配が生じることを発見したのです。この速度勾配が生じるエリアのことを境界層 (boundary layer) と呼びます。境界層とその厚さは、一様流れの速度の99%に達する高さと定義されます。異なる流れにおける速度勾配は、下図のように確認されます。矢印が流速、矢印を結ぶ線が流速のプロファイルを表します。
図1: プレート付近を通過する流れの境界層。層流から乱流に遷移する境はレイノルズ数で計算できます。
層流 (Laminar flow)
流体が壁面の表面から乖離しない限り層流と考えられます。層流はレイノルズ数によって定義でき、レイノルズ数が1800~2300の場合は層流とみなせます。レイノルズ数は、一様流れの速度 u と特性長さ L (上図ではプレートの長さ)、同粘性 ν で定義されます。
乱流 (Turbulent flow)
レイノルズ数が大きいとき、流れは乱流とみなされます。これは、流れが壁面に沿った流れではなくなり、乱流境界層が生じることを意味します。壁付近での境界層プロファイルを計算内で考慮するには、以下の2通りのアプローチがとられます。
- Wall function (壁関数)
- 速度プロファイルを関数で数値モデル化します。そのため、境界層プロファイルが完全に計算される訳ではなく、壁面近傍でも比較的粗いメッシュを利用できます。
- なお、壁関数で良好な精度が得られるのは、メッシュの最初のセルが対数領域となるようにします。(30 < y+ < 300)
- Full resolution
- 関数は使用しないで、流れのプロファイルを計算で表現します。メッシュは一定の条件よりも細かい必要があり、特に壁面近傍では高い分解能が必要です。
- 十分な分解能を得るには、ひとつめのセルが層流のサブレイヤーに位置する必要があります。(y+ < 1)
SimScaleにおいても、Wall 境界条件の種類によっては、乱流境界層のモデリングを変更できます。
図2: Wall 境界条件における Turbulence wall の設定
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Wall 境界条件の種類と選択
(U) Velocity を変更することで、壁境界の種類を選択できます。
使用できる種類は以下の通りです。
- No-Slip (滑りなし壁、ノンスリップ壁)
- Slip (滑り壁、スリップ壁)
- Moving wall (移動壁)
- Rotating wall (回転壁)
図3: Wall 境界条件において Velocity から変更できる壁境界の種類
No-slip
滑りなし壁、あるいはノンスリップ壁と呼ばれる条件です。粘性流および、壁面で速度ゼロで速度勾配がある現実に近い壁面で使用される壁境界条件です。
この壁境界を適用するシチュエーションの例
- 建物周りの流れ解析における、建物の外壁
- 配管内流れの解析における、配管の内面
- 翼周りの流れ解析における、翼の表面
以下の例では、自由流れ内のプレート表面に No-slip 壁境界条件を設定しました。表示されている速度分布のコンター図を見ると、プレート表面では速度が 0 となっていることが分かります。
図4: 自由流れ内のプレート表面に No-slip 壁境界条件を設定した場合の速度分布
No-slip 壁境界の設定パネルを示します。Assigned Faces に設定を適用したいサーフェスを選択します。
図5: No-slip wall の設定パネル
Slip
滑り壁、あるいはスリップ壁と呼ばれる条件です。設定した面は摩擦がゼロになります。数学的には、設定した面において、速度の法線方向成分を消し、接線方向成分はそのままとします。
この壁境界の設定を適用するシチュエーションの例
- 風洞試験を模擬した解析における、流体領域の側面
以下の例では、自由流れ内のプレート表面に Slip 壁境界条件を設定しました。表示されている速度分布のコンター図を見ると、プレート表面においても速度が保たれており、速度の勾配はほとんどないことが分かります。
図6: 自由流れ内のプレート表面に Slip 壁境界条件を設定した場合の速度分布
Slip 壁境界条件の設定パネルを示します。 (U)Velocity が Slip となっていることを確認してください。
図7: Slip wall の設定パネル
Moving wall
動いている壁面に対して設定します。この設定により、設定したサーフェス表面における流速はゼロにはなりません。
この壁境界を適用するシチュエーションの例
- 走行中の車体周りの空気の流れの解析。地面となる面に相対的な速度を設定します。
- 工場内の設備で稼働しているベルト。
以下に、 自由流れ内のプレート表面に Moving wall 境界条件を設定した例を示します。プレート表面の速度が大きくなっています。
図8: 自由流れ内のプレート表面に Moving wall 境界条件を設定した場合の速度分布
Moving wall の設定パネルを示します。 (U)Velocity が Moving wall となっていることを確認してください。また、壁面の移動速度について、x, y, zの速度成分を設定してください。
図9: Moving wall の設定パネル
Rotating wall
指定した回転軸周りに、回転速度を与えます。速度は、角速度で定義します。角速度は定数だけでなく、テーブル形式で入力あるいはCSVファイルで設定することもできます。
この壁境界を適用するシチュエーションの例
- 回転している車のタイヤ
- 空中で回転しているボール(球)
以下に、 円筒の表面に Rotating wall 境界条件を設定した例を示します。回転方向と流れの方向が一致する円筒の上側では流れが加速していることが分かります。
図10: 円筒表面に Rotating wall 境界条件を設定した場合の速度分布
Rotating wall の設定パネルを示します。 以下の項目を設定します。
- (U) Velocity
- Rotating wall とします。
- Point on axis
- 回転の中心軸が通る点を設定します。
- Rotation axis
- 回転軸の方向をベクトル形式で設定します。なお、回転方向は軸に対して右手の法則の向きとなります。
- (ω) Rotational velocity
- 回転速度を角速度で指定します。テーブル形式で設定することも可能です。パラメトリックスタディ機能も使用できます。
図11: Rotating wall の設定パネル
熱的境界条件
以下の、熱の計算も行う解析タイプでは、 Wall 境界条件で温度に関する設定も行います。
以下のように、 Temperature type という設定項目が表示され、以下から選択できます。
- External wall heat flux (熱流束)
- Fixed value (一定温度)
- Adiabatic (断熱)
- Turbulent heat flux (乱流熱流束)
図12: Wall 境界条件の設定パネルにおける Temperature type の設定
Radiation (ふく射) と Solar load (日射) が関連する設定は、それぞれのページをご確認ください。
Fixed value
指定した面は、一定の温度となります。設定では、温度を指定します。
Adiabatic
熱が一切伝達されない断熱状態となります。温度勾配がゼロとなります。
External wall heat flux と Turbulent heat flux
系の中での初期温度差、または定義した熱伝達の状況によって系の温度状況に生じる変化を解析する場合に用います。 Conjugate heat transfer 解析タイプでは、このふたつは統合されています。
以下の図のように、 Heat flux あるいは Heat source の設定も選択します。
図13: Temperature type を External wall heat flux と Turbulent heat flux とした場合の設定の選択。
壁を通して、熱が伝達される様子の概要図を以下に示します。下図では、周囲の環境がより高温となっており、流れが生じています。ここで、壁面を通じて内面に熱が伝達されます。内面・外面が逆の場合も同様に考えられます。ここで想定する状況によって、 Heat flux も含めて設定を使い分けます。
図13: 壁を通して熱が伝わる様子
Derived heat flux
熱伝達係数で壁の外側の状況を定義します。設定できる項目は以下の通りです。なお、番号は図の中の番号と紐づいています。
- Additional heat source: 追加の熱源
- Initial boundary temperature: 初期の温度
- Wall thermal: 仮想レイヤーを考え、パラメータを設定できます
- Heat transfer coefficient: 熱伝達係数
- (T) Ambient temperature: 周囲の温度
図14: Heat flux: Derived heat flux の設定パネル
Fixed heat flux と Flux heat source
熱流束と初期温度を設定します。設定するサーフェスの面積から、伝達される熱量が計算されます。設定項目は以下の通りです。
- Heat flux: 熱流束
- Initial boundary temperature: 初期温度
図15: Fixed heat flux と Flux heat source の設定パネル
Power heat source
熱源として、[W] で熱量を設定します。 Fixed heat flux と Flux heat source では熱流束すなわち単位面積あたりの熱量を設定していましたが、ここでは絶対値を設定しますので面積は関係がなくなります。
注意:複数の面を選択してこの境界条件を設定した場合、独立した面それぞれがここで設定した熱量で発熱します。ここで設定する値は、合計値ではありません。