概要
このチュートリアルでは、回転領域を用いたタービン内の非定常非圧縮流体シミュレーションを実行する方法を紹介します。使用するモデルはフランシス水車です。
回転領域を含むシミュレーションでは、CADの準備とシミュレーションの設定にいくつかの追加手順が必要です。このチュートリアルでは、それらをカバーします。
図1:Multi-purposeソルバーを使用した水車内の流れの非定常解析
このチュートリアルでは、次のことを学びます。
- Multi-purposeソルバーを使用した非圧縮性・非定常シミュレーションの設定と実行
- Saved selectionsの割り当て
- 境界条件、材料、およびその他のプロパティの割り当て
- Multi-purposeの自動アルゴリズムによるメッシュ作成
以下の手順で解析を進めます。
- シミュレーションのためにCADモデルを準備します。
- シミュレーションの条件を設定します。
- メッシュを作成します。
- シミュレーションを実行し、結果を評価します。
1. CADモデルと解析タイプの選択
まず、下のリンクをクリックしてください。ジオメトリを含むチュートリアルがワークベンチにコピーされます。
次の図は、チュートリアルをインポートした後に表示されるものを示しています。
図2:ワークベンチにインポートされたフランシス水車のCADモデル
このジオメトリは、フランシス水車の流体領域です。さらに、後ほど設定する回転領域のためのRotating zoneという名前の円柱ジオメトリが用意されています。
| Tips |
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水車は、流れから運動エネルギーと位置エネルギーを取り除いて、シャフト上の機械的トルクに変換することで動作します。 一方、ポンプはその逆です。ポンプは、機械的エネルギーを軸のトルクという形で入力することで、水流を加圧することができます。 |
1.1. ジオメトリの準備
このチュートリアルでインポートするジオメトリは、CFDシミュレーションのための準備が整っています。タービンの固体壁が含まれていないことに注意してください。この解析では、流体領域と回転領域のみが必要です。
タービンのモデルを回転領域のあるシミュレーション用に準備する手順に興味がある場合は、こちらのページを確認してください。
1.2. シミュレーションツリーの作成
Francis turbineを選択し、Create Simulationボタンを押します。
図 3:新規シミュレーションの作成
解析タイプとしてMulti-purposeを選択し、Create Simulationをクリックします。
図4: SimScaleで利用可能な解析タイプのライブラリ。Multi-purposeを選択します。
画面左側のパネルにシミュレーションツリーが表示されます。シミュレーションツリーの項目を上から順番に設定していきます。
グローバル設定では、時間変化による変動を解析するために、図 5のようにTime DependencyをTransientに変更します。非定常解析では、回転領域でスライディングメッシュ利用できます。
図 5:グローバル設定をTransientに変更します。
| Tips |
| タービン翼内では、流れの分離が発生しますが、k-epsilon乱流モデルによって効果的に捕捉されます。 |
2. プリ処理
下図は、境界条件の概要です。
図6 フランシス水車の境界条件概要
2.1. 重力の設定
今回のシナリオでは、重力加速度の効果も含めることにします。シミュレーションツリーからModelをクリックし、gyを-9.81 m/s2にします。
図7: 大型の機械では、重力の影響を考慮すると、シミュレーション結果に大きく影響します。
2.2. 材料の定義
本シミュレーションでは、水を材料として使用します。Materialsの隣にある+ボタンをクリックします。そうすると、下図に示すように材料ライブラリーが表示されます。Waterを選択し、Applyをクリックします。
図7:材料としてWaterを選択します。
デフォルト値のまま、Flow regionを割り当てます。
図8:Flow regionだけに材料を割り当てていることに注意してください。
Rotating zone volume は材料を設定する必要はありません。
2.3. 境界条件の設定
図6に示すように、境界条件を設定します。ここでは、流入速度と流出圧力を設定します。残りはデフォルトで壁面の境界条件が割り当てられます。
2.3.1. Velocity Inlet (流入境界)
Boundary conditionsの隣にある+ボタンをクリックします。ドロップダウンメニューが表示され、境界条件を選択することができます。
図9:SimScaleで利用できる境界条件。リストからVelocity inletを選択します。
Velocity inletを選択したら、パラメータを指定して面を割り当てる必要があります。水は流入面から体積流量15 m3/sで流入しますので、Flow rate typeは(V) Volumetric flowとして、Flow rateは15 m^s/s、Assigned Facesには下図で青くなっている流入面を選択します。
図10:流入面に15 m3/sの体積流量を割り当てる。
2.3.2. Pressure Outlet
新しい境界条件としてPressure outletを作成し、流出面を選択します。Pressure typeがFixed valueに、(P) Gauge Pressure が0 Paに設定されていることを確認します。
図11:流出面には固定圧力境界条件を設定します。非圧縮性流体では、ゲージ圧で与えます。
| Tips |
| タービンを通過した後、水はドラフトチューブと呼ばれる部分を通って外に出ます。このドラフトチューブの目的は、流速を遅くし、運動エネルギーを位置エネルギーに変換することです。ドラフトチューブは出口での運動エネルギーの損失に直接関係するため、慎重に設計する必要があります。 |
2.3.2. Walls
Multi-purpose解析では、壁として扱われるすべての表面は、ソルバーによって自動的に設定されます。回転領域の外側の壁にはNo-slipが適用され、回転領域の内側の壁は特に選んで静止する条件を与えない限り、回転壁として扱われます。
| Tips |
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MRF rotating zoneのボリューム全体は、指定された回転速度で回転しています。 回転領域が回転すべきでない面と交差している場合も、Multi-purposeソルバは特に設定を行わずに自動的に適切に処理します。 例えば、このジオメトリでは、回転すべきでない1つの面が回転帯と交差していますが問題ありません。 図12:AMIの回転領域(黄色)と表面(赤色)の部分的な交差 |
2.4. Advanced Concepts
シミュレーションツリーで、Advanced conceptsに移動します。Rotating zonesの隣にある+ボタンをクリックします。非定常シミュレーションの場合、スライディングメッシュをモデル化することになります。スライディングメッシュゾーン(AMI)を図のように定義します。
- Originを(-0.5, 2.75, 0.715)に変更します。
- Axisをy = -1に設定します。
- Rotational velocityを31.42 rad/sと定義します。
図 13: 回転ゾーン内のボリューム全体の回転速度は31.42 rad/sとなります。
回転ゾーンの設定の名前は必要に応じて変更できます。このシミュレーションでは、上図のように、Sliding Mesh - AMIとしました。
| Tips |
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グローバル設定の時間依存性の初期入力に基づき、Multi-purpose は回転領域を MRF または AMI ゾーンとして自動的に割り当てます。このチュートリアルでは、領域が時間ステップに対して実際に動くAMI rotating zoneをセットアップします。 Multi-purposeシミュレーションの非定常解析を設定する際に、追加の入力は必要ありません。 MRF rotating zoneとAMI rotating zoneの違いについては、こちらの記事で説明しています。 |
2.5. Simulation Controlについて
Multi-purposeシミュレーションのNumericsは、適したデフォルト値が設定されていますので、変更する必要はありません。
Simulation controlは、以下のように変更します。
- End time: 回転翼の4回転をキャプチャします。Delt tで割り切れるように、終了時間は0.83秒とします。
- Delta t: タイムステップごとに少なくとも3 deg.の回転を捉えることが推奨されています。タービンのランナーブレードは0.00166秒ごとに3 deg.ずつ回転します。
- Maximum runtime: 非定常シミュレーションはより長い時間が必要です。今回は1e+5 秒に設定しました。
図 14:チュートリアルのSimulation controlの非定常の応答設定。タイムステップごとに 3 deg.以下の回転で、少なくとも4〜5回転分のキャプチャを行います。
その他の設定はデフォルトのままにしてください。Simulation controlについて詳しくは、こちらをご覧ください。
2.6. Result Controlについて
Result controlは、モデル内の特定の場所だけでなく、領域全体での収束挙動を観察できます。したがって、シミュレーションの品質と結果の信頼性の重要な指標となります。
2.6.1. Forces and Moments
このシミュレーションでは、下図に示すように、ランナーブレードにForces and momentsを設定します。
図 15:フランシス水車のランナーブレードのForces and moments
時間を節約するために、ランナーブレードの表面にはあらかじめSaved selectionsが設定されています。
2.6.2. Area Average
Surface dataの隣にある+ボタンをクリックします。以下の図 16 に示すように、流入面と流出面のArea averageを作成します。
図16:流入面と流出面に設定されたArea averageのモニター
2.6.3. Pressure Difference
以下のように、流入面と流出面の圧力差を直接取得することもできます。
図17:圧力差の直接計算。パラメトリックスタディにおすすめの設定です。
このように設定すると、複数の流量に対する圧力曲線を生成するパラメトリックスタディを実施する場合に便利です。
3. メッシュ
メッシュを作成するには、Automaticアルゴリズムを使用することをお勧めします。これは自動化されており、ほとんどの形状に良い結果をもたらします。
このチュートリアルでは、メッシュのFinenessに1を使用します。メッシュの細分化の影響を調べたい場合は、メッシュのFinenessをより高いレベルにスライドさせるか、Region refinementを使用することで、メッシュの精緻さを上げることができます。
図 18: Multi-purposeメッシャーの自動設定
このシミュレーションは非定常シミュレーションであるため、粗いメッシュ設定から必要に応じて徐々に細かくしていくことで、コアタイムを節約することをお勧めします。
| Tips |
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オートメッシャーでは、Physics-based meshingを使用して、ほとんどの領域を分割できるBody-fittedメッシュが作成されます。 マニュアルメッシャーを使用している場合は、このMulti-purposeマニュアルメッシングのドキュメントページでパラメータの設定方法について学ぶことができます。 |
| 計算実施済みのプロジェクト |
| 解析条件の設定とシミュレーション計算がすでに実施済みのプロジェクトをこちらからご確認いただけます。 |
4. 解析の実行
これでシミュレーションを開始できます。Simulation runsの隣にある+アイコンをクリックします。ダイアログボックスが表示されますので、Runに名前を付けてシミュレーションを開始します。
図 19: シミュレーションの開始
結果が計算されている間、Solution Fields または Post-process results をクリックすると、ポストプロセッサーで中間結果を確認することができます。これらはリアルタイムで更新されています。
図20: シミュレーション実行中および終了後、Solution FieldsまたはPost-process resultsをクリックすると、ポストプロセッサーにアクセスすることができます。
シミュレーションが終了するまでには、およそ90分かかります。
5. ポスト処理
5.1. メッシュの可視化
ポストプロセッサーの内部で、Parts colorフィルターでColoringを任意のSolid colorに変更し、Render modeをSurfaces with meshに変更すると、CADモデルの不透明なサーフェスとメッシュグリッドを重ねて表示することができます。
図21:SimScaleのオンラインポストプロセッサー内のメッシュの可視化
Cutting Planeフィルターを使用して、生成されたメッシュの内部を確認することができます。
- 上部のリボンからCutting planeフィルターを選択します。
- ローターが切断されるまで位置を調整する。
- OrientationをY軸にします。
- ColoringをSolid colorに変更します。
- Show meshを有効にして、メッシュが見えるようにします。
図 22:Cutting planeを使ったメッシュの詳細な検査
数秒後、メッシュの内部を示すクリップが表示されます。このメッシュは、このチュートリアルには十分なものです。
| Tips |
| ジオメトリの1つの面を選択して、それを隠すこともできます。この方法で、内側のサーフェイスを検査することができます。 |
5.2. Pressure Drop
フランシス水車の性能を評価する際に最も重要なパラメータの1つは、水がタービンを通過した後にどれだけ圧力が低下するかということです。圧力損失は、面積平均プロットを使用して流出面の圧力から流入面の圧力を差し引くことで計算するか、Area average > Pressure differenceで直接 δp の値を見つけることができます。
図23:Result controlで設定した流入面と流出面の圧力差をここで可視化できます。個々の圧力は、ハイライト表示された平均値で確認できます。
図 23 は、圧力の変動が時間依存であることを示しています。例えば、時間ステップ 0.6 から 0.8 までの平均値を計算すると、タービンによる圧力損失は約 3.819 MPaとなります。
5.3. Forces and Moments
タービンを用いたシミュレーションでは、Forces and momentsの結果に特に注目します。今回のタービンのランナーは、Y軸の周りを回転しています。したがって、結果として生じる圧力と、この軸の周りに発生するトルクを調べてみましょう。
図24:Y軸まわりの圧力モーメントに回転速度をかけたものが、平均的な出力となる。
羽根にかかる結果としてのトルクは、回転軸まわりのすべてのモーメントの合計で与えられます。角速度ω 31.42 rad/sとの積から、出力は5463 kWとなります。
このシミュレーションでは、平均出力は5441.74 kWでした。したがって、このフランシスタービンのY軸方向には、約5442 kWの電力が発生していることになります。
5.4. Particle Traces
流線は特に回転機械の用途において、流れのパターンを視覚化するための優れたツールです。以下の手順で、タービン内部の流線を表示します。
- 定義済みのフィルターをすべて削除し、一番上のフィルターリボンからParticle Traceをクリックします。
- ピックポジションアイコンが有効であることを確認します。
- ジオメトリのトップビューが画面の平面と一致していることを確認します。
- トレースを生成するためのSeed面として、流入面を選択します。
図25: Particle traceフィルターは、流体が領域を横切って移動する際の経路を追跡します。
次に、このプロセスを繰り返し、今度は流出面をシード面として選択します。
図 26: 流入面と流出面の両方から流線を描画することで、タービンの流れ領域全体をカバーすることができます。ここでは、回転領域からのタービンの回転運動の結果として、流出領域に向かって渦が発生しているのが確認できます。
トレースを作成した後、レンダーモードをTranslucent surfacesにすると、流れをよりよく見ることができます。タービンの回転運動により、流出領域で流れが円運動をすることが分かります。
5.5. Pressure and Velocity Vectors
タービン内部の流れの挙動をより詳細に知るには、Cutting planeフィルタを使用します。
- 上部のツールバーからCutting planeフィルターを作成します。
- 設定ウィンドウで、切断面のPositionを(-0.25, 5.333, -3.029)に変更します。
- さらに、切断面のOrientationをX方向にします。
- 切断面のColoringをPressureに設定します。
図27: SimScaleのフィルターはすべて高度なカスタマイズが可能で、よりよい視覚化が可能です。
図27から、タービン内部を流れるときに水圧が下がり、流出面まで流れるとさらに下がる様子がわかります。
また、以下の手順で位置や向きを調整することで、ブレードが流れにどのような影響を及ぼしているかを見ることができます。
- 切断面のOrientationをY方向にします。平面のColoringをVelocity Magnitudeに変更します。ローターとの交差点が見えるまで、Positionスライダを調整します。
- Vectorsトグルをオンにします。Vector fieldをVelocityに設定し、そのColoringを任意のソリッドカラーにします。
- Scale factorを0.05に、Grid spacingを0.04にします。Project vectors onto planeを有効にします。
図28: フランシス水車内部のベクトルで速度分布を示す切断面
5.6. Animation
適用したフィルタの効果をアニメーション化することができます。一番上のフィルターリボンからAnimationを選択し、アニメーション設定パネルの下にある再生ボタンをクリックします。ツールバーのRecordから動画も作成できます。
アニメーション1:アニメーションフィルタを使った羽根の回転効果
このビューでは、ブレードとガイドベーンが流れにどのような影響を与えているかを把握することができ、設計の最適化が可能になります。
SimScaleのポストプロセッサーで結果を分析しました。ポストプロセッサーを使用する方法については、ポスト処理ガイドをご覧ください。