Multi-purpose
Multi-purpose では、二分木法に基づく独自アルゴリズムを活用したロバストな自動メッシャーと、それに最適化されたCFDソルバーを利用できます。高クオリティな六面体セルが得られるため、精度を確保しつつ、セル数を削減して計算を実施できます。さらに、高速な収束を実現します。特徴的な機能は以下の通りです。
- 複雑なジオメトリ形状にもロバストな構造メッシュ(直交メッシュ)
- 有限体積法の離散化と高度な並列化に適したセルによる、高速計算
- 回転領域を含むロバストな計算
- 混相流やマルチコンポーネントといった様々な機能
Multi-purposeは、有限体積法ベースの数値流体解析ソルバーであり、圧力と速度の連成を分離して解くSIMPLE [1] アルゴリズムの独自派生版を利用しています。これにより、同じフレームワークで非圧縮性流体 / 圧縮性流体、層流 / 乱流の計算に対応しています。乱流モデルは、RANS方程式を使用して、閉じた空間ではk-εモデル、壁近傍では独自の壁関数を使用してモデル化されます。
定常解析に加えて、完全な非定常解析を実施できます。非定常解析では、流体の流れが時間経過ともにどう変化するかを高精度に計算でき、計算領域内の回転部品はスライディングメッシュでモデル化されます。
図: 遠心コンプレッサの解析結果。直交メッシュ上に速度コンターが表示されています。
SimScaleでは、簡単に共役熱伝達の解析を実施できます。解析の設定の手順を示していきます。
Multi-purposeシミュレーションの作成
Create Simulationから、解析の種類を選択できます。Multi-purposeは、下図で矢印で表示されています。
図: Create Simulation画面
解析タイプを選択して新たにシミュレーションを作成すると、以下のようにシミュレーションツリーが表示されます。次節からは、それぞれの設定項目の概要を紹介していきます。
図: Multi-purposeのシミュレーションツリー
Global Settings
シミュレーションツリーの最上位に表示される Multi-purpose をクリックすると、下図のグローバル設定の設定パネルが表示されます。
図: Multi-purpose のグローバル設定パネル
Multi-purposeで設定できる項目は以下の通りです。
-
Compressible (圧縮性の考慮)
- トグルのオン/オフを切り替えます。熱伝達を扱いたい場合はオンにします。
-
Multicomponent (マルチコンポーネント)
- オンにすると密度や粘度が異なる2種類以上の流体の混合について解析できます。
-
Multiphase (混相流)
- 非定常解析 (Transient) の場合のみ利用できます。また、Cavitation modelと同時には利用できません。
- オンにすると、混相流の自由界面を扱う計算ができます。
-
Number of phases (相の数)
- 混相流の解析を行うとき ( Multiphase がオン )のとき、扱う相の数を指定します。
-
Cavitation model (キャビテーションモデル)
- キャビテーションの解析を行いたい場合はConstant gas mass frictionに切り替えます。モデルの詳細は、詳細ページをご覧ください。
-
Turbulence model (乱流モデル)
- 乱流モデルを選択します。利用できるモデルは以下の通りで、乱流モデルはk-εのみ利用できます。
- Laminar
- k-epsilon
- 乱流モデルを選択します。利用できるモデルは以下の通りで、乱流モデルはk-εのみ利用できます。
-
Time dependency (時間依存性)
-
Steady (定常) か Transient (非定常) を選択します。
- なお、Advanced conceptsで設定できるRotating zone (回転領域)は、定常解析の場合はMRF、非定常解析の場合はAMI (スライディングメッシュ) のみそれぞれ利用できます。
(非定常としても設定の表示上 MRFとなっている場合がありますが、スライディングメッシュで計算されています。)
- なお、Advanced conceptsで設定できるRotating zone (回転領域)は、定常解析の場合はMRF、非定常解析の場合はAMI (スライディングメッシュ) のみそれぞれ利用できます。
-
Steady (定常) か Transient (非定常) を選択します。
詳細は、こちらのページの該当する項目をご確認ください。
Geometry
解析で使用するジオメトリ(CADモデル)を選択します。一般的なCFDではCADモデルを事前に整えることで、メッシュ作成やシミュレーション計算関連のエラーを予防できます。しかしながら、Multi-purposeで利用できるメッシャーとソルバーは非常にロバストなため、比較的複雑なCADモデルをそのまま利用できます。著しく煩雑でメッシュ分割に失敗する場合は、メッシャーがCADモデルの編集を促すエラーメッセージを表示しますので、多くの場合はその時点でCADモデルを編集すれば大丈夫です。
CADモデルの事前準備についてはこちらのページをご覧ください:CADデータの準備で気を付ける点
また、ポンプやタービン、ファンといったターボ機械・回転機械を含むモデルで、回転領域モデルを利用する場合は、回転領域を設定するためのジオメトリをSimScaleのCADモードあるいはお使いのCADソフトで予め用意する必要があります。詳細はRotating zoneのページをご覧ください。
Model
重力加速度と表面張力の設定を行います。
(g) Gravity: (重力): 各方向の重力加速度の成分を入力してください。
Surface tension (表面張力): 表面張力の値[N/m]を入力してください。
Materials
解析で使用する物性を設定します。材料ライブラリから使用するものを選択してください。該当するものが標準のリストにない場合あるいは物性値を編集したい場合は、どれかひとつを選択してApplyをクリックした後に設定パネルで名前や値を編集できます。
グローバル設定でCompressibleを有効にした場合は温度の計算も含まれるため、熱物性も必要となります。
理想気体モデルだけでなく、低温・高圧下における気体の挙動を模擬する実在気体モデルを設定することも可能です。(使用場面は、圧縮機内の冷媒の流れ、蒸気タービン内の蒸気の流れ、配管系内の混合ガスの流れ等が考えられます。)
詳細は、こちらのページの該当する項目をご確認ください。
非ニュートン流体設定 Herschel-Bulkley
材料ライブラリから物性値を選んだ後に表示されるポップアップのViscosity modelでHerschel-Bulkleyを選択すると非ニュートン流体を扱うことができます。
図: Herschel-Bulkleyモデルの設定
Herschel-Bulkleyモデルは以下の式で表されます:
\[\tau=\tau_{0}+k\dot{\gamma_{ref}}^{n} (\tau\geq\tau_{0})\]
\[\dot{\gamma_{ref}}=max(\dot{\gamma}, \dot{\gamma_{0}})\]
ここで各パラメータは以下の通りです:
- \(k\): Consistency index (一貫性係数)
- \(n\): Flow index (流動指数)
- \(n=1\): ニュートン流体
- \(n<1\): シアシニング流体
- \(n>1\): シアシックニング流体
- \(\tau_{0}\): Yield stress (降伏応力)
- \(\dot{\gamma_{0}}\): Critical shear rate (臨界せん断速度)
- \(\dot{\gamma}\): Shear rate (せん断速度) 設定は行いません。流れ場の値が採用されます。
Yield stress (降伏応力)およびCritical shear rate (臨界せん断速度)は、歯磨き粉のようなある一定のせん断応力・せん断速度を超えると降伏し流動する流体(ビンガム流体など)をモデル化するために用いられます。
降伏点を持つ流体:
- \(\tau_{0}\): Yield stress (降伏応力) ← 降伏点における応力
- \(\dot{\gamma_{0}}\): Critical shear rate (臨界せん断速度) ← 降伏点におけるせん断速度
降伏点を持たない流体:
- \(\tau_{0}\): Yield stress (降伏応力) ← 0以上
- \(\dot{\gamma_{0}}\): Critical shear rate (臨界せん断速度) ← 0以上
Initial Conditions
Multi-purposeでは、グローバル設定でMultiphaseを有効にした場合のみ、シミュレーションツリーに表示されます。解析領域の全体あるいはSubdomain (一部)について、Phase fraction (各相の比率)の計算開始時点での初期値を設定します。
図: Phase fractionの初期条件の設定
詳細は、こちらのページの該当する項目をご確認ください。
Boundary Conditions
Boundary conditions (境界条件) では、解析を行う系と周囲の環境における境界面の状態を設定します。流入境界・流出境界・壁境界・対象境界を設定します。
なお、境界条件が設定されていない面は自動的にノンスリップ境界が割り当てられます。
設定できる境界条件の詳細は、こちらのページをご確認ください。
Multi-purposeが得意とする回転機械の流れ解析機能と境界条件のパラメトリックスタディ機能を活用することで、簡単にファンカーブやポンプカーブを求められます。以下に簡単に例を示します。
パラメトリックスタディ機能を使用すると、テーブル形式で指定した条件に対して同時に解析を実行できます。
図: 異なる流量の境界条件に対して同時に解析が実行されている様子
結果では、設定した各流速に対する圧力カーブといったグラフも自動で表示するようにできます。
図: 自動で作成された各流量に対するΔPのグラフ
Advanced Concepts
Advanced conceptsでは、発展的な解析条件項目の設定を行えます。Multi-purposeで利用できる項目は以下の通りです。
-
Rotating zones (回転領域)
-
ワークベンチでの表示上ではMRF rotating zoneと表示されますが、非定常解析の場合はスライディングメッシュで計算が行われます。したがって、適用される計算手法は以下のようになります。
- 定常解析(グローバル設定でTime dependencyがSteady-state)の場合: MRF
- 領域内で回転に伴う運動項を計算します。
- 非定常解析(グローバル設定でTime dependencyがTransient)の場合: スライディングメッシュ
- 領域内のメッシュそのものを回転運動に伴って移動させて計算します。
- 定常解析(グローバル設定でTime dependencyがSteady-state)の場合: MRF
-
ワークベンチでの表示上ではMRF rotating zoneと表示されますが、非定常解析の場合はスライディングメッシュで計算が行われます。したがって、適用される計算手法は以下のようになります。
Simulation Control
シミュレーションに関する全般的な設定を行います。例えば、タイムステップや解析終了時間、使用するプロセッサのコア数を設定できます。Multi-purposeではソルバーが他の解析タイプと異なるため、ここでの設定項目も異なります。以下は、Multi-purpose固有の設定項目です。
-
Number of iterations
-
Time dependency: Steady-stateの場合:
- 計算のイタレーション数。
-
Time dependency: Transientの場合:
- 各時間ステップ内で収束計算のためのイタレーション数。計算ステップ数ではないのでご注意ください。25が推奨値です。計算ステップ数は、End time/Delta tで設定してください。
-
Time dependency: Steady-stateの場合:
-
Convergence criteria (収束クライテリア。現在のイタレーションでの残差と最初のイタレーションでの残差の比率を表す相対残差です。)
-
Time dependency: Steady-stateの場合:
- 全ての方程式について相対残差がConvergence criteriaを下回ったときに、シミュレーション計算が終了します。0.001のような小さな値が推奨されます。
-
Time dependency: Transientの場合:
- 各時間ステップにおいて、全ての方程式に関する相対残差が設定したConvergence criteriaを下回った場合に、イタレーション数に関わらず収束したと判定され、次の時間ステップに移ります。0.1が推奨値です。2024年現在、各時間ステップにおける最大イタレーション数は25です。収束しなかった場合は、最後のイタレーションにおける相対残差が記録され、次の時間ステップに移行します。
-
Time dependency: Steady-stateの場合:
グローバル設定で設定したTime dependency (定常か非定常か)によって、以下のように設定項目が変化します。Transient とした場合は、End time (シミュレーション内での計算終了時間)、Delta t (シミュレーション内での時間ステップ)が追加されます。
図: それぞれの場合におけるSimulation controlの設定パネル
詳細は、こちらのページの該当する項目をご確認ください。
Result Control
解析結果の追加出力項目を設定できます。下記の項目を出力するように設定できます。
- Forces and moments: 特定の面に作用する力とモーメント。タービンブレードにかかる圧力や粘性力を求めるため等の目的に有効です。
- Surface data: 特定の面における平均値・総和。
詳細は、こちらのページの該当する項目をご確認ください。
Mesh settings
Multi-purposeでは、固有のメッシャーを使用します。メッシュは、各セルが立方体でエッジがXYZの直交座標系に平行となる構造メッシュとなります。二分木構造に基づいて荒いメッシュを細かくしていくトップダウンアプローチを採用した自動的メッシュ生成アルゴリズムが採用となっています。流体領域を囲む仮想的な"境界ボックス"に対して、1方向め (X方向)、2方向め (Y方向)、3方向め (Z方向)というようにセルを分割することで、方向に沿った細分化が行われます。
Multi-purposeのメッシュ設定では、AutomaticとManualの二通りで設定が可能です。それぞれのモードにおける設定項目は以下の通りです。
Automatic
設定パネルは以下の様に表示されます。
図: Automaticの場合のMesh settings
それぞれの項目は以下の通りです。
-
Finess
- メッシュの細かさを設定したレベルに従って自動で制御します。1がより粗く、10に近づくほど細かくなります。
-
Merge CAD surfaces
- 各CADパーツボディの面を統合し、メッシュを作成しやすくします。境界条件 (boundary condition) と結果出力 (Result setting) が設定された面には適用されません。また、メッシュ生成のために最適化を行うだけなので、破損したCADデータの修復や、面の追加・削除は行われません。
- 以下の効果が期待されます。
- 小さな面のメッシュ精度の改善
- 複雑なジオメトリ、複数パーツを持つジオメトリのアルゴリズム内での取り扱いの効率化
- 高品質なメッシュによる、解析時間・CPUh消費の節約
Merge CAD surfacesを適用せずにFinessを10に設定してメッシュ作成に失敗した場合と、Merge CAD surfacesを有効にしてFinessを1してクオリティの高いメッシュが得られた場合の例を示します。
図: Mesh settingsの設定違いによるメッシュ作成の比較
メッシュ作成の設定において、推奨される設定手順をこちらのページに記載しています。よろしければご覧ください。:解析タイプMulti-purposeでメッシュ生成がうまくいかないとき
Manual
設定パネルは以下の様に表示されます。
図10: Manualの場合のMesh settings
それぞれの項目は以下の通りです。
-
Cell size specification
- 以降の項目の値の指定方法を設定します。Absoluteとすると、絶対値となります。Relative to CADとすると、モデルの代表長さに対する相対値となります。
-
Minimum cell size
- 最小セルの大きさを指定します。
-
Maximum cell size
- 最大セルの大きさを指定します。
-
Cell size on surfaces
- 面に近い位置でのセルの大きさを指定します。
-
Specify growth rate, Growth rate
- Cell size specificationをAbsoluteとした場合のみ表示されます。
- 隣接するセルとのセルの大きさの比率を指定する場合はトグルをオンにします。
- Growth rateで比率を1より大きい整数で指定します。面に近い方から内側に行くにしたがって、この比率でセルが大きくなっていきます。例えば、2とした場合はとあるセルの大きさは、隣にあるサーフェス寄りのセルの2倍となります。
-
Merge CAD interfaces
- メッシュ品質を高めるために、CADモデルの面を統合します。Automaticの場合と同様です。
メッシュ作成の設定において、推奨される設定手順をこちらのページに記載しています。よろしければご覧ください。:解析タイプMulti-purposeでメッシュ生成がうまくいかないとき
Region refinement
特定の領域についてセルサイズを指定してメッシュを細分化できます。設定パネルは以下のように表示されます。
図: Region refinementの設定パネル
それぞれの項目は以下の通りです。
-
Target cell size
- 指定した領域内の全てのセルに対して、セルサイズの長さスケールを指定します。メッシュアルゴリズムに対応するために、指定した大きさよりも小さくなる場合もあります。
-
Geometry primitives
- リファインメントを設定する領域を指定します。Geometry primitivesを使用します。
メッシュのプレビューとログは、一度シミュレーション計算を実行しないと表示できませんが、収束計算の計算時間、収束までに要する時間は他の解析タイプに比べて小さくなります。また、計算が成功した場合のみCPUhは消費されますのでご安心ください。
ポストプロセス
シミュレーションが終了したら、SimScaleポストプロセッサで結果をご確認いただけます。ここでは、Multi-purpose 特有の機能をご紹介します。
Convergence Plots (収束プロット)
本ページの Simulation control > Convergence criteria に記載があるとおり、シミュレーションの途中および終了後に収束プロットをご確認いただけます。以下に、定常および非定常シミュレーションの例を示します。
下図は定常シミュレーションの場合です。Y軸に各イタレーションにおける相対残差を示します。
図: 定常 (Steady-state) シミュレーションにおける収束プロットの例
下図は、非定常シミュレーションの場合です。Y軸は各計算ステップにおける最後のイタレーションにおける相対残差を示します。
図: 非定常 (Transient) シミュレーションにおける収束プロットの例
メッシュの可視化
Multi-purpose においては、メッシュはポストプロセッサにて確認できます。メッシュに関する以下の値を表示できます。
- Volume Ratio (体積比)
- Cell Volume (セル体積)
- Minimum Edge Length (最小エッジ長さ)
- Non-Orthogonality (非直交性)
- Edge Ratio (エッジ比)
それぞれの値の意味は、こちらをご覧ください。
様々なフィルタ機能もご利用いただけます。下図に、遠心ポンプのシミュレーションで Non-orthogonality を Cutting plane filter 機能で断面表示した例を示します。
図: 断面にてメッシュの非直交性を表示した例
Relative Velocity (相対速度)
ポストプロセッサにおいて、 Multi-purpose でのみ Relative velocity (相対速度) を表示できます。これによって、回転領域内で回転速度に対する相対速度を可視化できます。 Rotating zone で設定した領域でのみ利用可能で、その他の領域はグレー表示になります。相対速度は以下の式で定義されます。
相対速度 = 局所速度 - 回転速度 × 局所半径
局所速度は、回転領域内の各セルにおける流速、局所半径はそのセルから回転領域の回転中心までの距離です。
図: Velocity magnitude (速度の大きさ) と Relative velocity (相対速度) の比較
| ヒント |
| 回転領域を含むシミュレーションを Multi-purpose で行うメリットのひとつは、回転軸のパワーを直接出力できる点です。 |
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References